先生「\(\sqrt{x}\)の定義は何ですか?」
生徒「\(x\)っていうのは何ですか?」
先生「ここでは\(x\)は実数だとしましょうか。\(\sqrt{x}\)の定義は何ですか?」
生徒「\(\sqrt{x}\)とは、二乗して\(x\)になる数です」
先生「そうですか?」
生徒「だって、\(\sqrt{4}\)は\(2\)ですし、\(2\)を二乗すると\(4\)になりますよね」
先生「はい。\(\sqrt{4}\)は\(2\)に等しいですし、\(2\)を二乗すると\(4\)に等しくなります。でも、\(\sqrt{x}\)の定義は「二乗して\(x\)になる数」ではありません」
生徒「?」
先生「\(\sqrt{x}\)の定義が「二乗して\(x\)になる数」だとすると、「\(x^2 = 4\)(\(x\)の二乗イコール\(4\))」という二次方程式の解は\(\sqrt{4}\)つまり\(2\)ということになります。そうですか?」
生徒「あ、違いますね。\(x^2 = 4\)の解は、\(\pm2\)(プラスマイナス2)です」
先生「そうですね。正(せい)の数2と、負(ふ)の数\(-2\)の二つがあります」
生徒「では、\(\sqrt{x}\)の定義は、「二乗して\(x\)になる数」ではなく、「二乗して\(x\)になる数のうちの正のほう」なのですね!」
先生「そうですか?」
生徒「違いますか?」
先生「\(x\)が正ならば、あなたの答えで正しいですけれど…」
生徒「\(x\)が正ならば…。そうか、\(x\)がゼロのときは、\(\sqrt{x}\)はゼロですね。「正のほう」という表現ではまずい?」
先生「まずいですね」
生徒「\(\sqrt{x}\)の定義は、「二乗して\(x\)になる数のうちゼロか正のほう」ですね!」
先生「そのことはよく、「二乗して\(x\)になる数のうち負でないほう」と表現します」
生徒「何だか素直じゃない言い回しですね…」
先生「定義としてはここまでで大丈夫です。\(x\)は実数としましたから…負の数についても考えてみましょう」
生徒「はあ」
先生「実数は必ず、正か、ゼロか、負かのいずれかですから」
生徒「はい…ええと、\(x\)が負のとき、\(\sqrt{x}\)は…あれ? 未定義、ですか?」
先生「はい、そうです。実数の範囲だけで考えるなら、\(x\)が負のとき、\(\sqrt{x}\)は実数の範囲では存在しません。\(x\)が負のとき\(\sqrt{x}\)は未定義といってもいいです。複素数まで考えれば未定義ではありませんけれど」
生徒「\(\sqrt{x}\)の定義は「二乗して\(x\)になる数のうち負でないほう」なのですね。そして、\(x\)が負なら、そのような実数は存在しない」
先生「はい、そうなります。「実数の範囲では」とか「\(x\)が負なら」といった条件がつくのが、もどかしいですね。でも、もうすこし学習が進んでいくと、美しい形でその条件を取り去ることができます。それを楽しみにしましょう」
生徒「でも、なんだか、ややこしいですね」
先生「\(y = \sqrt{x}\)のグラフを描いてみると、もう少しわかりやすいかもしれません」
生徒「これは…放物線ですね」
先生「放物線ですけれど、原点及び、\(x\)軸よりも上の部分が\(y = \sqrt{x}\)のグラフになります」
生徒「それはどういうことでしょうか」
先生「\(y = \sqrt{x}\)のグラフをよく観察してみましょう。\(x < 0\)のとき、グラフに対応する点はありません」
生徒「はあ」
先生「それは、ちょうど、\(\sqrt{x}\)に対応する実数が存在しないことをあらわします」
生徒「\(x = 0\)のときは、原点\(O\)ですね」
先生「はい。原点は、「\(\sqrt{x}\)は\(x = 0\)のとき\(0\)に等しい」ということに対応しています」
生徒「なるほど」
先生「そして\(x > 0\)のときは、\(x\)軸より上と、\(x\)軸より下(そちらは破線で表しています)に、 「二乗すると\(x\)になる数」があります。上と下とで二つ、ですね。そして、\(\sqrt{x}\)は…」
生徒「ははあ、\(\sqrt{x}\)は、上の方ですね」
先生「そうなります。それが「二乗して\(x\)になる数のうち負でないほう」に対応しているのです」
生徒「なんとなくわかりましたけれど、グラフとの対応はもう一度ゆっくり考えないとわからないです」
先生「はい。ゆっくり考えてください」
まとめ(すべて実数の範囲で考えるとする)
・「二乗すると\(x\)になる数」は… \(x < 0\) のときは存在しない \(x = 0\) のときは唯一存在する(0である) \(x > 0\) のときは二つ存在する(\(\sqrt{x}\) と -\(\sqrt{x}\) である) である。
・「\(\sqrt{x}\)の定義」は… 二乗すると\(x\)になる数のうち、負でないほう である。
※2014年01月23日の「結城浩の日記」から。 https://www.hyuki.com/d/